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20代でベンチャー転職が「怖い」と検索した夜から始まった決断の記録

※この記事について
私は人材・キャリア領域でブログを運営している者です。この記事は、元同僚の体験談(現在30歳)をもとに、本人の許可を得て再構成しています。プライバシー保護のため一部詳細を変更していますが、感情の動きや失敗のプロセスはすべて実話です。


午前2時。また目が冴えていた。

布団の中でスマホの画面を見つめながら、検索窓に打ち込んだのは「ベンチャー 転職 怖い 20代」。

大手総合商社3年目、26歳。周りからは「勝ち組」と言われる。給料も悪くない。福利厚生も手厚い。でも、胸の奥にある違和感は日に日に大きくなっていた。

SNSを開けば、大学の同期がスタートアップで事業責任者になったと投稿している。「今日はピッチでした!」って、キラキラした顔で。

(あいつ、学生時代は俺より全然勉強してなかったのに…)

嫉妬だとわかってる。でも、止められなかった。

「俺の20代、このままでいいのか?」
「でも、ベンチャーって失敗したら終わりじゃないのか…」

検索窓に打ち込んでは消す。打ち込んでは消す。結局、何も決められないまま朝が来る。

これは、そんな夜を何十回も繰り返した彼が、最終的にどう決断したのかの記録です。

大手総合商社の「安定」が、じわじわと心を蝕んでいった

彼の話を聞いたのは、2年前の居酒屋でした。

「仕事、辛いとかじゃないんですよ。むしろ、辛くないのが辛いというか…」

彼の所属していた部署では、新規プロジェクトの提案書を作っていました。ただし、その提案書が実際に通るかどうかは別の話。

何十人もの承認印が必要で、一つでも「前例がない」と言われれば終わり。会議は週に5回あるけど、議論というより「誰が責任を取るか」の押し付け合い。

「提案書、3ヶ月かけて作ったんですよ。でも、最後の役員会議で5分で却下されました。理由は『時期尚早』って」

その時の彼の顔を、今でも覚えています。

(ああ、この人は本気で悩んでるんだな)

誰にも言えなかった「ブラックな感情」

飲みが進むと、彼は本音を漏らし始めました。

「正直、同期がベンチャーで活躍してるの見ると、嫉妬するんですよ。で、その嫉妬してる自分がまた嫌になって…」

「親は『せっかくいい会社入ったのに』って言うし、彼女は『転職してもっと忙しくなるのは嫌』って言うし」

「でも一番きついのは、自分で『まあ、このままでもいいか』って諦めようとしてる自分がいることなんです」

この「諦めようとしてる自分」との闘い。これが、一番しんどいんだと彼は言いました。

最初のベンチャー転職活動は「逃げ」で失敗した

27歳の誕生日を迎える直前、彼は転職エージェントに登録しました。

紹介されたのは、従業員40人ほどのHR系ベンチャー。面接で社長が熱く語ってくれました。「うちは年齢関係なく、実力で評価する」

内定をもらった夜、彼は親に電話しました。

「…ベンチャー? 大丈夫なの、それ」

父親は「もったいない」とだけ言いました。彼女は黙って、それから「好きにすれば」と言いました。

その「好きにすれば」の冷たさが、胸に刺さったそうです。

内定承諾の返信メールを、彼は送れませんでした。期限ギリギリまで悩んで、結局辞退しました。

「もう少し今の会社で頑張ってみます」

エージェントに伝えた声は震えていたそうです。

「失敗した自分」が怖かった

それから半年、何も変わらない日々が続きました。

転職サイトは毎晩見ていました。でも、応募ボタンは押せない。

「あのとき気づいたんです。ベンチャーが怖いんじゃなくて、『失敗した自分を周りに見せるのが怖い』んだって」

彼の言葉です。

大手を辞めてベンチャーに行って、もしうまくいかなかったら。「ほら、言わんこっちゃない」という周囲の視線。同期との年収差。そして何より、「やっぱり自分はダメだった」と認めなければならない瞬間。

「安全な場所から動かなければ、少なくとも『失敗した人間』にはならない」

その計算が、彼を凍りつかせていました。

転機は29歳の誕生日、一人の居酒屋で来た

28歳になり、29歳になりました。

誕生日の夜、彼は一人で居酒屋に入りました。隣に座っていた40代くらいの男性と、なぜか話が弾みました。

「若い頃、ベンチャー行こうか迷ったことがあってね」

その人は大手商社で20年勤めていると言いました。

「結局行かなかった。今の会社に不満はないよ。給料もいい。でもね——」

少し間がありました。

50歳になった今でも、あのとき飛び込んでいたらどうなっていたか、たまに考えるんだよ

その一言が、妙に刺さったそうです。

2度目のベンチャー転職活動で変えた3つのこと

29歳の冬、彼は改めて転職活動を始めました。

1回目との違いは3つ。

①「今の会社が嫌だから」を動機にしなかった

前回は「逃げ」の転職でした。今回は「何をやりたいのか」を半年かけて書き出しました。

ノートに残ったのは、「自分の提案が直接プロダクトに反映される実感がほしい」という一行。

たった一行。でも、この一行があるかないかで、面接での説得力はまるで違いました。

②「完璧な会社」を探すのをやめた

前回は求人票の条件を見比べて、少しでもリスクを感じると候補から外していました。

今回は、「これだけは譲れない軸」と「受け入れられるリスク」を分けました。

年収が一時的に下がることは許容する。でもプロダクトの方向性に共感できない会社は無理。

この線引きをしたら、迷いが格段に減りました。

③周囲の「許可」を待つのをやめた

親や彼女に「応援してほしい」と願うのは自然なことです。

でも、自分の人生の選択を他人の承認に委ねていたら、一生動けない。

報告はする。でも、「許可」は求めない。

この切り替えに、いちばん時間がかかったそうです。

具体的にやったこと(これから転職を考える人へ)

彼が実際にやった行動をリストにしておきます。

  • Wantedlyでカジュアル面談を月3社ペースで入れた。「応募」ではなく「話を聞くだけ」のハードルの低さが良かった
  • TwitterでCEO・CTOをフォローして、発信内容から社風を見た。求人票には載らない情報がここに転がっている
  • 生活費のシミュレーション表をExcelで作った。 年収が100万下がった場合、150万下がった場合、最悪のケースでどこまで貯蓄で持つか。数字にしたら、不安がかなり和らいだ
  • ストックオプション(SO)の勉強を最低限した。 行使条件、税制適格要件、ベスティング期間。ここを理解せず入社すると後悔する

入社3ヶ月目、「やっぱり辞めなきゃよかった」と本気で思った

29歳の春、従業員50人ほどのHR系ベンチャーに入社しました。

最初の1ヶ月は高揚感に満ちていました。フラットな組織。スピード感のある意思決定。

——だが、2ヶ月目から景色が変わりました。

引き継ぎなしで任されたプロジェクトが炎上しました。マニュアルはない。前任者はすでに退職している。

「裁量が大きい」の正体は、「誰も教えてくれない」でした。

深夜のオフィスで一人、パソコンに向かいながら、あの商社の整然とした業務フローを思い出しました。

(やっぱり、辞めなきゃよかったかもしれない)

3ヶ月目、初めて企画した機能のユーザーインタビューで、相手の社長に「これ、全然使えないね」と面と向かって言われました。

前職では聞くことのなかった直接的なフィードバックに、頭が真っ白になりました。

帰り道、コンビニのトイレで5分間、動けませんでした。

(ほら見ろ。結局、僕はどこに行ってもダメなんだ)

それでも折れなかった理由

翌日、CTOが声をかけてきました。

「あの機能、方向性は悪くないよ。ただ、ユーザーの業務フローをもう一段深く見たほうがいい。来週、一緒にクライアント先行っていいよ」

たった二言。でも、商社時代には一度も言われなかった言葉でした。

「方向性は悪くない」という肯定と、「一緒に行こう」という伴走。

翌月、作り直した機能をリリースしたとき、あの社長から「おお、これいいね」とSlackでメッセージが来ました。

泣いたりはしませんでした。でも、帰りの電車で窓に映った自分の顔が、少し笑っていました。

転職して1年、正直なところ

転職して1年が経った時点での、嘘のない現状を書いておきます。

年収は前職から約80万円下がりました。 月の手取りでいうと4〜5万円ほど少ない。外食は減ったし、サブスクも3つ解約しました。

残業は増えました。 商社時代は月20時間程度だったのが、月40時間くらいになりました。

スキルの伸びは実感しています。 1年前の自分にはできなかったこと(ユーザーインタビューの設計、プロダクト要件の整理、クライアントへの直接提案)が、今は一人で回せるようになりました。

そして、あの胸の奥のモヤモヤは消えました。

代わりにあるのは、「来月のリリース、大丈夫かな」という不安。「あのクライアントの課題、ちゃんと解決できるかな」という焦り。

同じ「怖い」でも、種類がまるで違う。前の怖さは、ただしんどいだけでした。何も起きない日々への圧迫感。

今の怖さには、少なくとも手応えがある。自分が動いた結果として生まれている怖さだから、耐えられる。

ベンチャー転職が怖い20代によくある疑問に、経験者として答える

Q. 大企業のスキルってベンチャーで通用しますか?

正直、「そのまま通用する」ことは少なかったそうです。

大企業で当たり前だった承認フローも、資料のフォーマットも、ベンチャーでは「重すぎる」と言われました。

ただ、「大きな組織の仕組みを知っている」こと自体には価値があります。会社が50人→100人と成長するフェーズで、「前職ではこう管理してた」という引き出しが役に立ち始めます。

最初の半年は通用しなくて当然、くらいの気持ちでいたほうがいいです。

Q. ベンチャーに転職して後悔する人って、どんなパターンですか?

周囲を見ていて多いのは「裁量の大きさ」を楽しさだと思い込んでいたケース。

裁量が大きい=サポートが薄い、でもあります。

自分で調べて、自分で判断して、自分で責任を取る。それを「自由」と感じるか「放置」と感じるかで、向き不向きはかなり分かれます。

あとは、ストックオプションの条件を確認せずに入社して後悔する人は本当に多いです。

Q. 家族やパートナーにはどう伝えましたか?

最初は感情で伝えて失敗しました(1回目の辞退のとき)。

2回目は、Excelで作った生活費シミュレーションと、「最悪こうなったらこうする」というプランBを見せました。

彼女を説得できたのは「夢」を語ったときではなく、「数字と計画」を見せたとき。

相手が心配しているのは、あなたの夢のことじゃなくて、明日からの生活のことです。

Q. 20代でベンチャー転職するなら、今すぐ動くべきですか?

焦る必要はありません。彼も決断まで2年かかっています。

ただ、「情報を集める」だけは今日からできます。

カジュアル面談を2〜3社入れるだけでもいい。「辞めるかどうか」を考えるのではなく、「選択肢を増やす」と捉えれば、心理的なハードルはだいぶ下がります。

「ベンチャー転職 怖い」と検索しているあなたへ

もし今、深夜のスマホであの検索ワードを打ち込んでいるなら。

その怖さは正常です。本気じゃなきゃ、わざわざ深夜に検索なんてしません。

ただ、一つだけ伝えておきたい。

「怖いから動かない」と「怖いけど動く」の差は、思ってるほど大きくない。

彼の場合は、居酒屋で隣に座ったおじさんの一言がきっかけでした。

あなたのきっかけは、この記事かもしれないし、来週の会議での一言かもしれない。

大切なのは、そのきっかけが来たときに、自分の中に「問い」を持っていること。

「自分は何がやりたいのか」——ぼんやりでいい。
「何が許容できて、何が無理なのか」——ここは具体的なほうがいい。
「5年後、どっちの自分なら納得できるか」——完璧な答えじゃなくていい。

この三つに、なんとなくでも答えを持っていれば、怖くても足は動きます。

最後に——あの検索履歴の話

先日、彼とまた飲みました。

「スマホの検索履歴、2年前のあの夜の痕跡が出てきたんですよ」

「ベンチャー 転職 怖い」
「20代 転職 後悔」
「大手 辞める もったいない」

一つひとつが、あの頃の彼の声そのものでした。

「削除しなかったんですか?」と聞くと、彼は笑いました。

「あの検索ワードがあったから、今の自分がいるんで」

怖かった夜を何十回も越えたから、怖くても動ける自分になれた。

だから、あなたの今夜の検索も、たぶん無駄にはなりません。